-外伝 グラナの双剣-
( 1 )
作:ゴン
その小さな出会いと物語は、一つの戦乱で始まった。






「レイドさん、クウェアーさんは右から、アルセムさんとジュンさんは左から攻めてください!!」
1人の青年が戦場で命令を飛ばしている。
「ミルフィー!前衛のヨスクがやられた。どうする!?」
レイドと呼ばれた長身の男が命令を飛ばしていた青年に問い掛ける。
「ヨスクさんがですか!?まさか、あの人がやられるなんて・・・相手は一体どんな奴を送り込んできてるんだ・・・」

ここは鮮血滾る戦場。
セントハーゼン南端のオーゼナーシュ平原。
ミルフィーと呼ばれる青年率いるピョルト傭兵団はそこにいた。
本来なら指揮を取るのはミルフィーではなく、ゴンドラードと呼ばれる団長だが、彼は今別の戦場に出ている。

「通達します!」
汗を吹かしながら1人の傭兵がミルフィーのもとへ走ってきた。
「何か問題ですかっ!」
「はっ!物見台からの報告です!敵の中にノースウッド族が居る模様!総数不明です!」
「・・・ノースウッド族が・・・マズイですね、彼らはこのセントハーゼンでは最大の戦力を誇る一族。最低でも数万の兵力はあるはず。」
ミルフィーが1人考えこむ中、1人の青年が話しかけた。
「ミルフィーさん、私に一つ案があります。」
「ジュンさん。アルセムさんと出たんじゃないんですか!?」
ジュンと呼ばれた青年は見た目は普通の青年だが、普通の人間とは少し違う部分がある。
彼の背中には翼がある。それも6対12枚の翼。彼はフェザーウォルクという有翼族で、翼の枚数が多いほど一族の中で位が
高い。
「あの場はアルセムさんに任せてきました。大丈夫、彼は傭兵である前に魔術師です。私が居なくともあの場は食い止められますよ。」
「はぁ、それならいいんですが。ジュンさん。それでその案っていうのは・・・?」
ミルフィーがジュンにおずおずと問い掛ける。
「私が敵の後ろに回り込み敵を撹乱します。その間にランドさんに敵の中に特攻してもらい、散りじりになった敵を全員で叩くんです。」
「ランドさんをですか!?無理ですよ!彼女は団長の命令でもまともにきく事が少ないのに、ましてや僕の命令なんて・・・」
「あたしが、なんだって?」
「!!!!」
ミルフィーとジュンが話し込んでいる間に1人の大剣を担いだ女性が割り込んだ。
「ランドさん!あなた、今までどこにいたんですか!?」
「あぁ!?決まってんだろ、雑魚どもの相手をしてやってたんだよ。」
ランドがいかにも面倒くさそうに答える。
「で?あたしがなんだって軍師さんよぉ?」
「はい、実はですね・・・」

ミルフィーはジュンの出した策をランドに話した。

「なんだってぇ!!!?」
「いえ、無理ならかまいませんが・・・」
ミルフィーがたじたじと後ずさりしながら答えた。
「いいじゃないか。やってやるよ。しっかし、ジュンも良い作戦を考えたもんだねぇ。」
「でしょ!?たまには私もやるでしょう。」
「調子に乗んじゃないよ。」
バシッ
「あいたっ!」
「ランドさん、ジュンさん。ここ、戦場ですから・・・」
緊張感のないランドとジュンをミルフィーが諭した。
「わかってるよ!じゃあミルフィー、あたし達は行ってくるよ。」
「ええ、お願いします。」
「ミルフィーさん。良い成果を期待していてください。」
「ジュンさんも頑張ってください。」
ランドが大剣を担ぎ、ジュンが空から、2人は再び戦場に戻っていった。

「さて、この策で戦況がどれだけこちらが有利になるか・・・ランドさんとジュンさんに賭けるしかないな・・・」
「通達!軍師!大変です!!」
1人の傭兵がミルフィーのもとへ走ってきた。
「どうしました!!」
「アルセムが負傷しました!レイドとクウェアーの部隊も苦境を強いられています!」
「アルセムさんが!?相手は一体・・・」
「おそらくはヨスク隊を打破した者と思われます!」
「くっ・・・それだけ相手も躍起になっているという事か。」
そこに担架に運ばれてくるアルセムが来た。
「アルセムさん!大丈夫ですか!?」
「あぁ、ミルフィーか・・・俺は大丈夫だ・・・少しばかり、右腕がいかれちまったがな・・・くっ!」
アルセムと呼ばれた男は右腕からおびただしい血を滴り落としていた。
どうやら大事な血管まで傷つけたらしい。
「それ以上喋らないで下さい!衛生兵!!はやく手当てを!」
ミルフィーの掛け声で駆けつけた衛生兵がアルセムを運んでゆく。
「あの『鉄壁のアルセム』とまで謳われたアルセムさんまでが・・・この闘い、油断していたな・・・」
汗を拭いながらミルフィーはこの状況をどう打破するか考えたいた。

「ミルフィーーーーーーッッ!!!!」
戦場の中から1人の小柄な女性が駆けて来た。
「クウェアーさん!どうしたんですかその傷!?」
クウェアーと呼ばれた女性はタンクトップとスパッツに鎧を着けたような軽装な装備だが、
その服にはおびただしい切傷と共に、傷口からは止めど無く血が流れて出ていた。
「大丈夫よ、たいした傷じゃないわ!それよりも・・・」
「それよりも・・・?」
クウェアーは少し口ごもってミルフィーに言った。
「・・・レイドが・・・死んだわ。」
「そんな・・・何故レイドさんが・・・」
「相手はとんでもない奴を連れているみたいよ・・・」
「とんでもない、奴・・・?」
「ええ」
「一体、誰なんですそいつは!!」

「『グラナの双剣』よ。」
「!!!」

『グラナの双剣』それはノースウッド族に伝わる宝剣。2本揃っていてこそ本来の力を発揮する。
その力は一振りすると大気を裂き、大地を割るとまで恐れられるが、その力は未知数の剣。
そして使用者の名はわからない中、知らず知らずいつの間にか『グラナの双剣』と呼ばれていた。

「私達2人はミルフィーの命通りに右側から敵を攻めていたわ。でもそこにアルセムがやられたと通達が来たの。
そして私達はその場を部下に任せてアルセムの居た場所に行ったわ。流石に相手もアルセムと戦って怪我は避けられないと思ったからトドメを刺しに、ね。」
「・・・」
「そうしたら奴が・・・『グラナの双剣』が居たの。でも奴は傷一つ負っていなかったわ。そうして私とレイドは『グラナの双剣』と戦った。」
「でも、2対1では・・・レイドさんは槍の名手、クウェアーさんも刀の名手でしょう!?」
「名手だからなんて関係ないわ。例えそれが力の差だとしても、私達は『グラナの双剣』には勝てなかった。そして、レイドを失ってしまった・・・」
重々しい会話の中また一つの通達が来た。
「た、大変です!!兵糧が、兵糧庫が敵の伏兵に!!!」
「何!?まだ兵力があったっていうんですか!?」
「ミルフィー!?私達はどうしろっていうの!?このまま尻尾まいて逃げるしかないの!?」
クウェアーは涙目でミルフィーの襟を掴んで叫んだ。
「クウェアーさん落ち着いて!何か、何か策がある筈です・・・」
「そもそもこんな闘い私達が出る幕じゃなかったはずよ?相手はこの地の先住民族、私達はその地を侵略する民族の味方。
どう考えたって私達のほうが悪者じゃない・・・」
「今更泣き言は止めてください。それに僕達は人である前に傭兵なんですよ。雇われたからには最後まで役目を果たすまでです。」
「・・・こんな時に団長が居てくれたら・・・」
ミルフィーは歯がゆかった。任された事もまともに出来ない自分が心底情け無くて堪らなかった。
「・・・僕が出ます。」
「・・・ミルフィー・・・?」
「僕も戦場に出ます。」
「何言ってるの!あなたが出ては誰が戦場を指揮するの!?」
「大丈夫です。僕が居なくてもクウェアーさん。あなたがいますから。」
「そんな!私に指揮なんて出来ないわよ!」
「大体の戦況はクウェアーさん。あなたもわかっているでしょう?」
「ええ、ヤバイ状況ってことぐらいはね。」
「なら大丈夫。それだけわかっていれば充分です。」
「それだけわかっていればって・・・全然わかんないじゃないの!」
「大丈夫ですって。じゃ、僕は行ってきます。衛生兵、クウェアーさんの手当ても頼みます!」
そう言ってミルフィーは戦場へ出ていった。
「全く、何もわからないまま指揮なんて出来るわけないじゃないの・・・!」
慌しく兵が動き回る中、クウェアーは1人たたずんでいた。

ミルフィーが戦場に着くや否や。
「ミルフィー様!一体どうしてここに!?」
1人の兵長が話し掛けてきた。
「僕も出る。今兵糧が襲われているんだ。手の空いている者はいないか?」
「こちらも手一杯の状況ですが・・・兵糧が襲われているのでは仕方がありません・・・数名手配しましょう。」
「すまない。」
そして戦場の中、即席で兵数約100名ほどのミルフィーの部隊が出来あがった。
「今この戦況を打破するべくランドとジュンが動いている!私も今から兵糧を襲う敵勢を叩きに向かう!」
「遂に『氷炎』と名立たるミルフィー様が動くのですね!?」
「この戦の勝利、我がピョルト傭兵団がもらったも同然!!」
ミルフィーの部隊の数名がミルフィーが戦場に出た事で沸きあがる。
「敵を軽視してはならない!奴らにはノースウッド族がいる!だがこの戦況、我らの手で変えてみせるぞ!!!」
「オオォォォォォーーーーー!!!!!!!」
ミルフィーの激に部隊全体が答えた。
そして、

「突撃!!!」
ミルフィー達は兵糧の奪還に向けて戦場を駆けて行った。