-外伝 グラナの双剣-
( 3 )
作:ゴン
その小さな出会いと物語は、一つの戦乱で始まった。






その時、赤髪の少女の表情が一変した。
「ラミア、そいつ、誰?」
「あ・・・お姉様、この人は・・・」
「うちの兵士じゃ、ないよね。」
赤髪の少女の手に力が入った。
「お姉様、違うの!!」
そして。

「ラミアから離れろおぉぉっっ!!!」

赤髪の少女がミルフィーに向かって駆けた。
「な、早い!!」
ミルフィーがそう思い、剣を構えようとしたが。
「しまった!剣は向こうに置いたままだ!」
ラミアを助けた時に、ラミアが剣を恐がる為に後ろに投げ捨てたのだ。
その時。
「あたしの妹に何をしたあぁぁっ!!」

ブォンッ!!

「くっ!」
赤髪の少女が振った剣を紙一重でかわし、そのままミルフィーは一気に後ろへ跳躍し、地面に置いてあった自分の剣を手に取った。
「あんた、蛮族じゃないわね・・・どうせ奴らが雇った傭兵か何かでしょ!」
「お姉様、聞いて!その人は、ミルフィーさんは悪い人じゃないの!」
「何いってんのラミア!こいつらはね!・・・・・・ミルフィー?ラミア、今こいつの事ミルフィーって言ったわよね?」
「・・・うん。」
赤髪の少女の顔がさらに厳しくなった。
「ってことは、こいつが『氷炎』の・・・!」
赤髪の少女が両手に持った剣を構えた。
「その手で・・・その手で何人の人を殺してきたの!?答えなさい、『氷炎のミルフィー』!!」
「!!・・・そんな・・・ミルフィーさんがあの・・・『氷炎』・・・。」
ラミアが愕然とした顔でミルフィーを見る。
「『氷炎のミルフィー』!あんたの命、ここで貰いうける!」
赤髪の少女が間髪入れずに再び剣を振る。

ブォン!ブォン!ヒュオン!!

「くっ、なんて早さだ・・・!!」
ミルフィーは赤髪の少女に押されながらもなんとか攻撃を防いでいる状態だった。
「どうしたの!?その程度の強さなの『氷炎』!それじゃああんたを倒しても、今まであんたに殺された仲間が浮かばれないわっ!!」
「くっ・・・!」
その時ミルフィーの目が凍った。
「!!。そうよ、その目だわ!その目でなくっちゃね『氷炎』!!!」
そして2人の剣撃が競り合いに入った。
「答えてくれ!その手に持つ2本の剣・・・まさか君が『グラナの双剣』なのか!!?」
「そっちではそうあたしは呼ばれてるみたいね・・・まぁいいわ。そうよ、あたしがあんた達の言ってる『グラナの双剣』よ!!!」
「なら・・・なら君が、ヨスクさんやアルセムさん、レイドさんをぉぉぉっ!!!!!」
ミルフィーの凍った目がその奥に炎を宿した。
「ああああああああああああっっっ!!!!!!!!!!」

ギィィィィィィンッ!!!!!

「きゃああぁっ!!!」

ミルフィーの覚醒した力に、競り合いになっていた状況から赤髪の少女は後ろへ数十メートル弾き飛ばされた。
だが、流石に赤髪の少女も運動能力が卓越しているのか、空中復帰の体勢をとって地面に着地した。
「・・・やるわね。それがあんたの本来の、あたしの仲間を殺した力ね。」
「黙れ!!君だって僕の仲間を殺しているじゃないか!!自分が正義のような言い方をするな!!」
「そういうあんただってそうじゃない!蛮族の味方をしておいて、正義面しないでよ!!!!!」
切迫した状況下、2人の剣が再び交わろうとした刹那。

「どっちも正義なんてねぇさ。」

「!!」
茂みの中から1人の女性が出てきた。
「ランドさん!」
「よぉ、ミルフィー。お前の部隊が先に戦場に戻って来たんだが、なかなかお前が戻って来ねぇから心配して来て見れば、この有様たぁなぁ。」
「そう易々と戻れない状況になったからですよ。ランドさん、あなたも下がっていてください。このコ、相当できます!!」
「ああ、知ってるさ。スピアだろ?」
「すぴあ・・・?誰ですかそいつは。」
「あん?お前の目の前にいる女の事だよ。なんだ、サシの勝負で相手の名前すらわからずに戦ってたってのか?」
「目の前の女の事だよ・・・って、なんでランドさんがあのコの事を知ってるんですか!?」
「なんで、って言われてもなぁ。知ってんだからしょうがねぇだろ。なぁ、スピア。」
そうランドが言ってスピアと呼ばれた赤髪の少女の方を向く。
「久しぶりだね、ランド。」
「あぁ、あたしが傭兵団に入って以来ってとこか?」
ランドとスピアが親しげに会話を始めた中、ミルフィーとラミアがぽかんとしてそれを眺めていた。
そしてミルフィーは我に返る。
「ちょ、ランドさん!なに仲良く話してるんですか!一応このコも敵ですよ!?」
ミルフィーは忘れていた。ついさっきまで自分がその敵の妹と話していたことを。
「あぁ、そうだね。そういや今は敵だったね。ってことでスピア。おとなしくあたしにやられてくれないかねぇ。」
ランドが大剣を構えた。
「そうもいかないのよね。」
スピアが双剣を構えた。
その時。

「スピア様―――――っ!スピア様――――っ!!」

茂みの奥から1人の兵士が出てきた。
「何事ですか!」
「はっ!ノースウッド部隊の大半が敵にやられました!!!」
「何ですって!?」
「目撃によるとアンチノースウッド族の者と奇妙な武器を持った有翼族の者にほとんどがやられたとの事です!」
「くっ・・・!全軍に伝えなさい!怪我人を救助しつつ撤退せよと!」
「はっ!!!」
スピアが兵士に命令をだし、兵士が去って行った。
「・・・アンチノースウッドって・・・どうせランド。あなたのことでしょ?」
「ご名答。あたしたち傭兵団の中にはアンチノースウッドはあたししか居ないからねぇ。」
スピアは歯をくいしばってランドに話しかける。
「運命って残酷なものね。」
「運命ってのはそんなもんだよ。」
「・・・・・・ラミア、行くよ。」
スピアがラミアの手をひっぱって行く。
「ちょ、お姉様、痛い!」
ラミアは去り際に哀しい目付きでミルフィーを見た。

「さてと。ミルフィー、この闘いはあたし達の勝ちだ。みんなのいる所に戻るよ。」
「あ、あぁ・・・。」
ランドとミルフィーはその場を後にしようとした。
だが、ミルフィーは少し後ろ髪引かれるように振りかえって足を止めた。
「ラミアちゃん・・・ごめん。・・・でも、これが僕達傭兵の姿なんだよ。」
ミルフィーが1人呟く中ランドの声が。
「なにしてんだミルフィー!置いてくぞ!!」
「あぁ、ごめん!今行く!」

そしてミルフィーは考えることになる。
それぞれの正義というものを。
ノースウッドやアンチノースウッド、蛮族や傭兵に至るまで。全てのものには自分の信ずる正義があるということを。
例えそれが他人から見て悪であろうとも、自分にとっては正義なのだということを。

ミルフィーは遠くの空を見るように呟いた。

「僕の居た村を襲った奴らにも、正義があったんだろうか・・・・・・・・・でも・・・シルフィは、必ず助け出してみせる・・・!」