宮殿のような大豪邸の回廊。1人の少女が急ぎ足で1つの部屋を目指して歩いている。
だがその少女の前に紅玉色の瞳をし、メイド服を着て頭から兎の耳を生やした女性が立ちはだかった。
「スピアお嬢様、お止まりください!」
メイド服を着た女性がスピアに静止を呼びかける。が。
「どきなさい玲璃!!お父様に会わせて!!」
「なりません!ご主人様は執務中です。誰も入れるなとの仰せを受けておりますので。」
「あなたじゃ話にならないわ。無理にでも通してもらうわっ!!」
そう言い放つとスピアは一気に父親の居る執務室に向かって走り出した。
だが。
「なりません!!」
スピアの前に玲璃と呼ばれた女性が再び立ちはだかった。
怜璃の種族はハーフラビット。兎のような瞬発力と機敏性を併せ持つ。
スピード勝負ではスピアが玲璃に適う筈が無い。
「っ!!どいてよ玲璃!!!」
ギィ・・・
怜璃とスピアが後ろを振り向くと執務室の扉が開き、中からメイドらしき黒髪の女性が目尻に涙を溜め、衣服の乱れを整えながら出てきた。そしてそのメイドは怜璃とスピアに一礼して廊下の奥へ消えていった。
「・・・!!。バカ親父がぁ・・・!!!」
「お嬢様!なんて下品な言葉使いを!!」
スピアの顔は怒りと憎悪でいっぱいになり鬼の如く紅潮していた。
「どきなさいって言ってるでしょおぉぉっ!!!」
ドォン!!!
「きゃっっっ!!!」
スピアは思いきり玲璃を壁に叩きつけて執務室の扉を勢いよく開けた。
「お父様!!!!!」
スピアの前に豪華な装飾が施された机に肘を着け、椅子に座っている男性が現れた。
「・・・どうした。スピア。」
男は彫りの深い顔を微動だにせず冷たい目でスピアに視線を向けた。
「どうしたじゃない!!!あなたはいつまでこんな事を・・・!!!」
「こんな事・・・?あぁ、さっきのメイドの事か・・・なに。大した事ではない。」
「大した事ないですって!?あなたって人は・・・!!」
スピアは拳に力を込め思いきり握り締めた。
「スピア。お前はそんな事を言いにここに来たのか?違うだろう。早く前日の戦果を報告しないか。」
「・・・っ!・・・・・・わかりました。報告します。」
スピアは怒りを抑えながら父親に報告を始めた。
「オーゼナーシュ平原の闘いでは蛮族の進行は阻止出来ませんでした。これによりセントハーゼンのノースウッド占領率は97.83%から89.23%に減少。先住民の被害者数はおよそ3万人、我がノースウッド遠征軍からはおよそ12万人。」
「・・・計15万人か。お前とラミアがついていながらこれだけの被害を出したのには何か原因があるんだろう?」
「・・・はい。最大要因としては雇用軍としてピョルト傭兵団が参戦したのが原因と考えられます。」
その言葉を聞いた時、父親の表情が少し変化した。
「ピョルト傭兵団・・・か。フン、ゴンドラードの狗どもめ・・・」
スピアの父親は俯き加減で呟いた。
「スピア、もう下がって構わないぞ。」
「お父様、まだ私の話は終ってませんが。」
「・・・下がれと言っているんだ。」
冷たい瞳がスピアの脳髄を貫いた。
「・・・・・・・・・はい。」
そしてスピアは執務室を後にした。
ギィ・・・バタン
執務室から出ると、外には玲璃が待っていた。
「玲璃・・・さっきはゴメン。つい、カッとなっちゃって・・・」
「構いませんよ。どうか心配なさらないでくださいお嬢様。」
そう言って怜璃はにこやかな笑みをこぼした。
「では、私はご主人様に用がありますのでこれで。」
怜璃はそう言うとさっきスピアが出てきた部屋へ入っていった。
廊下に一人きりになったスピアは再び廊下の奥へ歩き出した。
「ご主人様。」
「玲璃か・・・どうした。何か用か?」
夕暮れの光が執務室いっぱいに射し込む中、2人は対峙した。
「例の物の起動が遅れていますが、如何致しましょう。」
「問題はない。いざとなれば・・・」
「いざとなれば、娘を使う。ですか?」
「・・・・・・」
「・・・承知しました。では先に挿入されている物達の調整をしてまいります。」
玲璃はスピアの父親に一礼して執務室を後にした。
自分以外誰もいなくなった部屋で、スピアの父親は1人窓越しに見える風景を見て独語した。
「・・・この世界を『アボ=ス=ルート』に渡すわけにはいかんのだ。全ては、秩序と平和の為に・・・」
怜璃は一つの扉の前へ来た。
だがその扉にはノブがない。すると玲璃はその扉に手を翳し。
「権剛蔡君、器至哲臨、降牢跋扈、般薇息亮。」
どこの言葉かわからない語句で詠唱を終えると。
―――――ヴゥン――――――
扉が少し歪んだ。
そこに玲璃が扉へ吸いこまれるように入っていった。
怜璃が扉の中へ入ると、はじめは真っ暗だった所に一筋の光の回廊が地下へ向かって造形された。
その回廊をコツコツとヒールを鳴らしながら下へ下へと降りていく。
ヒールが地面につくごとに、壁が反応するかのように細い光の筋を走らせた。
そして最深部らしきところにつくと、一際巨大な鉄の扉というより鉄の門が現れた。
その門は意思をもっているかの如く、鉄の触手が門の上部から生え出して目の前にいる生命体が誰なのか確認し始めた。
その触手がその生命体を怜璃と確認すると、触手は門に引き戻され、門は重々しい音を響かせながら開いていった。
怜璃がその門を潜ると、中にはピラミッド状に形成された鉄の座席が下に4席、上に1席置かれていた。
下の座席はそれぞれ四方を向いて、上の座席は八方どこでも見られるように回転する仕組みのようだ。
するとそこに1人の女性が姿を現した。
「怜璃様、如何なされました?」
「玄冥。皆を呼んで頂戴。」
玄冥と呼ばれた茶色の髪の女性は玲璃に一礼して。
「句芒!祝融!辱収!玲璃様がお見えです。来なさい!」
玄冥がそう言うと、奥でなにやら作業をしていた3人の女性が走ってきた。
「怜璃様、如何なさいましたか?」
祝融と呼ばれた黒髪を腰まで垂らした女性が怜璃に問い掛ける。
「玲璃様がここに来るなんて、めずらしいですねぇ。」
辱収と呼ばれたツインテールの金髪の少女が話しかける。
「怜璃、何か問題でもあったか?」
句芒と呼ばれた褐色の肌の女性が話しかける。
「皆、よく聞いて。ご主人様が決断なされました。『虹の身体』が集まらない時はご息女をお使いになるそうです。」
「ご主人様が・・・そうですか。」
玄冥が呟いた。
「これから最終段階に向けての整備に入ります。全員、持ち場に戻りなさい。」
「はっ!」×4
怜璃が言うと玄冥、祝融、辱収、句芒が鉄の4つの席へついた。
するとそれぞれの席の前に光のパネルが現れ、4人はそれをリズミカルに叩いていく。
「システム、起動。」
句芒が怜璃に告げた。
「グラナゲージ。不充分。」
辱収が告げる。
「『虹の身体』。本体に接続します。」
祝融が告げる。
「『マテリアル』。試験起動!」
玄冥が告げる。
5人のいる空間が微振動を始めると天上から7本のパイプが突き出してライトアップされた。
そのパイプの中にはそれぞれ液体が詰まっており、さらにその中にはそれぞれまだ10代くらいの少女が裸体のままで投入されていた。
だがそのパイプは7本に対して、少女が入っているパイプは5本。
それぞれの少女は体型こそ様々だが、配列には何か関係があるようだ。
左から順に濃紫、藍、緑、黄、赤茶の髪の色をしている。
虹の色を表現しているようだが、まだ2色足りない。
藍色の髪の少女と緑色の髪の少女の間に1色。
赤茶色の髪の少女の右隣に1色。
赤と青が。